学校教育とSDGs

2021年9月13日

「地域の学習共同体」への道

2021年9月4日にZOOMで開催された「アクティブ・ラーニング研究会@学習院」の勉強会の冒頭で、意見交換の導入として、改めて「地域の学習共同体」のイメージを整理して簡単に話しました。7月29日に開催した勉強会で「OECDのラーニング・コンパス2030とオーバーロード」について紹介した際に、最後のスライドで、将来の地域社会における教育は、「地域の学習共同体」という姿にしていくべきではないか、と述べました。その発想は、前期のブログ八ヶ岳SDGsスクール | 教育改革の潮流とオーバーロード(その3) – 八ヶ岳SDGsスクール (yatsusdgs.com))の最後に書いたように、経済学者の故宇沢弘文氏が、社会が共通に利益を受ける自然環境やインフラや制度を「社会的共通資本」とし、学校教育制度もその一つに位置づけていることに触発されたものでした。勉強会では、「地域の学習共同体」が議論の中心になり、参加者に対して「私の「地域の学習共同体」」の提出が宿題とされました。そして、それらについてさらに議論を深めていくことが、9月4日の勉強会の趣旨でした。話の骨子を書いたスライド1が、画面共有したPPTのタイトル・ページです。

1.社会変動の趨勢から導かれる2050年の地域社会の教育像

SDGsやOECDのラーニング・コンパスは2030年という近未来のあるべき姿を描いていますが、もう少し先を見越した地域社会における教育像が必要という考えから「2050年」設定しました。「2050年」というのは、学習院大学に教育学科を開設するにあたっての作ったキャッチコピー「2050年の社会を見据えた教員養成」の流用であって、それほど厳密なものでないことは言うまでもありません。

現代の社会の変動はどんどんスピードアップしていますが、2050年時点で持続可能な社会の構築が実現できていたとしたら、おそらく今日の激動を乗り越え、ある程度安定した「定常型社会」となっているであろうし、意識的に「定常型社会」を目指さねば、持続可能な社会の構築には至らないだろうという私なりの確信に基づいて、そのころの地域の教育像を考えようということです。基本的な姿は、「世代を超えたすべての地域住民が一緒に学び合う場で未来世代を育む」というもので、SDGsやラーニング・コンパス2030が描く未来像に応える教育が2050年であっても求められているはずです。また、地域社会の抱える課題はますます大きくなり、地域の課題解決型教育は今以上に重視されるはずです。

また、2050年には、いよいよ本格的な生涯学習時代となっていることも、社会の変動の趨勢からの必然と言えるでしょう。本格的な高齢化社会が到来し、「人生百年」を謳歌する元気なリタイア層が、健康で充実した生(Well-being)を求めているはずです。また、「AIとIoTが多くの職業を駆逐する」といわれる第4次産業革命後の社会で生き残るには、青少年期に集中的に行う今日の学校教育での学びでは耐用年数が短すぎるものが多く、社会人となった後も継続的に学び続けざるを得なくなっているはずです。しかも、人々の微妙な心理に寄り添うようなAIやロボットが苦手とする能力、多様な人々の多様な考え方を取り入れながら強調して課題を解決していくような能力は、到底青少年期の集中学習だけで十分に修得できるものではなく、継続的な、しかも様々な協働作業の過程での学びを通して身に付けていくものと言えます。

他方で、2050年といえども、青少年期の集中的な学習の場である学校の必要性は失われません。ただ、家族の複雑さやヴァーチャルな世界の拡大などで学校をめぐる様々な課題はますます増大し、学校内で対応できるものではなくなっていると予想されます。「地域とともにある学校」の実現や、SDGsやラーニング・コンパス2030の期待に応える地域側の体制も求められているはずです。

このような社会の変動の趨勢から導かれる生涯学習社会における学びの場の全体が、「地域の学習共同体」であって、教育機関と地域社会との様々な協力・支援関係が有機的に結びつき、その境界もあいまいなものになっているはずです。また、地域の学習共同体の中核部分である学校も、乳児段階から幼稚園・保育園段階、そして初等中等教育段階から高等教育段階あるいは生涯学習段階の間の壁が希薄になっている姿を描くことができます。

そこでは、日常的に地域の人々が子育てを手伝い、幼児を見守り、児童生徒の学びを支援し、高等教育機関や生涯学習機関の運営に協力する姿が展開されているはずです。また、高等教育機関や生涯学習機関では地域内外の人々が学習者として参加するだけでなく、なかばボランティアとして指導に参画する姿も常態化しているはずです。高等教育機関や生涯学習機関の役割として地域の課題解決が重視されるようになると、アカデミックな素養の豊かな人もさることながら、地域社会の実態を熟知し、地域での生産活動に関わっている人々が指導陣に加わることは必然となります。もちろん地域の産業界やNPO等の諸団体による支援や協力も「地域の学習共同体」が持続的に機能していく上では不可欠なs要素となっているはずです。

2.「地域の学習共同体」への道

「地域の学習共同体」はどのような規模の地域を単位として形成されることが望ましいのでしょうか。小中学生が何とか通学が可能であり、「自分たちの地域」というまとまりがあるのは、平成の大合併以前の市町村(全国に3000強存在)ぐらいが一つの目安ではないでしょうか。平成の大合併以前の市町村の大部分は、現在も小学校、中学校が少なくとも各1校は備えていますので、その前提で「地域の学習共同体」が形成される過程を描いたものがこのスライドです。

まず、学校統廃合に当たって、隣の町村の小学校同士、あるいは中学校同士が水平的に統合されるのではなく垂直的な統合で小中一貫校が作られます。そこに高校普通科改革で設置が可能になった地域探究科の分校を設置します。高校の分校ですから地域外からも通学可能ですし、分校の生徒も週に1~2日は本校で過ごします。そのようにして誕生した地域の小中校一貫校に、(大学設置基準の大幅緩和で開設が可能になる)地方分散型低学費大学の地域キャンパスが設けられ、小中高大一貫校が作られます。その大学部分は地域の生涯学習センター的な機能も果たすことになります。そして、地域と一貫校との協力・連携が進み、境界が意識されなくなることで、「地域の学習共同体」が誕生していきます。

実際には、そう簡単には進まないでしょうし、今日の地域に根付いた学校教育制度から「地域の学習共同体」への移行には相当な時間を要すると考えられま。それゆえに今からしっかりと目標を定めて、地域性を無視した経済合理性第一の水平統合ではない、垂直統合を軸に学校統廃合を進めていく必要があります。

そのようなやや迂遠な道筋を辿ったとしても、構築するに値するのが「地域の学習共同体」で、そのメリットはこのスライドに列記した通りです。

「地域の学習共同体」は、学外の多様な人々・組織が一体となって次世代を育むという、文科省が「Society3.0時代の学校ver.3.0」で描いた将来構想とも一致するものですし、地域の人々の支援の下、安心安全な子育てと教育が可能になり、児童生徒の不登校やいじめが激減して、子どもたちの伸び伸びとした学校生活の評判が広がれば、多くの移住者を導くことになります。また、生涯学習機能を備えた高等教育機関が付加されることで、地域の課題解決に向けた産学公連携も進み、地域の持続可能な活力維持・向上を見込むことも可能になります。

ただし、この「地域の学習共同体」の構築は、既存の学校教育から逸脱する部分が多いので、様々な抵抗が予想されます。特に、時代遅れの教員免許制度と大学設置基準が構想実現の大きな妨げになることは容易に予想できます。

このスライドに描いた図は、既に『教育展望』2021年6月号に寄稿した提言「「個別最適」と「タテ社会」—ICT活用の懸念と学校の「ヨコ社会化」—」(p.46-52)で説明していますしが、文科省が十数年前からこれまでに進めてきた2つの教育改革の方向性と、近未来へのもう一つの方向性を3つのベクトルで表現してみたものです。8月にアップしたブログ八ヶ岳SDGsスクール | 教育改革の潮流とオーバーロード(その1) – 八ヶ岳SDGsスクール (yatsusdgs.com))でも述べたように、一番下の第一のベクトルは今回の学習指導要領改訂で強調された「協働的な学び」を重視する教育方法の改革です。第二のベクトルは、2021年1月の中央教育審議会答申「「令和の日本型学校」の構築を目指して~全ての子供たちの可能性を引き出す個別最適な学びと協働的な学びの実現~」で強調された、ICTの活用による「個別最適」を目指す方向性です。そして第三の「ヨコ社会化」のベクトルは、2018年に文科省のタスクフォースが描いた「Society5.0に向けた学校er.3.0」に描かれた、学外者・学外機関の学校教育への関与を示したものです。「地域の学習共同体」の基本をなす多様な学外者・学外組織の学校教育への関与は、文科省が推進しようとしているものと一致しています。

このOECD のEducation2030プロジェクトが2019年に提示した「ラーニング・コンパス2030」の図も、一連のブログですでに紹介していますが、要点だけを再度記しておきます。 ラーニング・コンパス2030は、学習者がコンパス(羅針盤)を用いて、最終的な目標である“Well-being 2030”を目指すイメージを描いています。とりわけ重要な概念がエージェンシーという「変化を起こすために、自分で目標を設定し、振り返り、責任をもって行動する能力」です。OECDが約20年前に提起したキー・コンピテンシーが、「社会や経済の変化に対応する鍵となる能力」という受け身の能力概念でしたが、、ラーニング・コンパス2030では「変革をもたらすコンピテンシー(Transformative competencies)」が重視されています。SDGsを内包する「持続可能な開発のための2030アジェンダ」が冒頭に掲げた”Transforming Our World(我々の世界を変革する)”に通じるものです。また、エージェンシーは一人だけで発揮されるものではなく、仲間や教師、親、地域の人々という周囲との関係性の中で育まれ、発揮されるものであることから、「共同エージェンシー」が大きな役割を果たすされており、取り巻く人々が大きな役割を果たす「地域の学習共同体」とも通じるものです。

3.高校普通科改革で「地域探究科」を

前述の高校の分校の設置による小中高一貫校については、若干の補足説明が必要と思われます。

日本の高等学校の生徒の7割は普通科に在籍しています。そして普通科卒業生の約3分の2が大学に進学しています。他方で自宅での学習時間が30分以下という高校在籍者が6割に達しており、日本の18歳の青年のうち、「自分は責任ある社会の一員だと思う」比率は約45%で、他の国々が軒並み80~90%であるのと雲泥の差があります。学習意欲が低く、社会に対する責任意識や参画意識の低い高卒者が大挙して大都市圏に集中する大学に進学し、地方の若年人口減をもたらしているという現実があります。その流れを断ち切り、高校段階から世界的な課題や地域の課題と向き合う青年を育てる必要があるという認識に基づいて進行したのが高校普通科改革で、特にSDGsなどの現代的な課題に取り組む学科と地域社会の課題解決に向けた学びの学科を設けるべきとの結論が中教審内の高校改革ワーキンググループから出されました。ワーキンググループの中心メンバーには島根県教育魅力化特命官の岩本悠氏や地方の活性化に向けて発信し続けてきた小田切徳美氏などが加わっていました。

この高校普通科改革で開設が可能になった「地域探究科」を地方の主要な高校に設けることは、卒業後も地域の活性化に貢献しようという育むという点で、非常に有効なことだと感じています。その場合に、「地域探究科」の生徒を高校のキャンパス内にとどめるのではなく、近隣の複数の小中一貫校に付設する形で分校を設け、そこで1学年20人程度の生徒を分散させることで、地域に腰を据えて地域の課題解決に向けた学びに立ち向かう、まさに地域に密着した学びを行うことが可能となります。地域探究科の生徒は、授業の一部は本校で通常の授業を受け、多くは分校を拠点にフィールドワークなどの地域密着型の学習を行いますが、さらに、分校間の交流を活発にすることで各地域の特質の違いを深く理解できるようになり、「地域探究科」本来の役割をより効果的に果たすことができるであろうと考えています。この小中一貫校に付設された高校の分校は、地域の小中一貫校と地方分散型低学費大学の懸け橋という役割も担うことになります。小中一貫校に高校の分校が付設されることで小中高一貫校が誕生し、そこにさらに地方分散型低学費大学地域キャンパスが置かれると、小中高大一貫校となります。高校の生徒は中学生の、また大学の学生は高校生のメンター的な役割を果たせますし、逆に、上級学校の授業に参加して学ぶことも可能になります。

4.地域活性化に対する高等教育機関の役割

アクティブ・ラーニング研究会@学習院は、2014年の現行の学習指導要領の文科相諮問段階で、「アクティブ・ラーニング」を重視する姿勢が示されたことから、その応援団的な勉強会という形で生まれました。メンバーの多くが地球環境問題のような地球的課題に対する関心を持つとともに、少子高齢化と人口減少で活力を維持しにくくなる地方の活性化が重要と考えていました。さらに、当時の(多分に今の)学校教育が硬直的で、社会の大きな変化に対応できていない、と考えていました。そこで、当初は初等中等教育段階の問題点と、その解決への道筋を探ることが話題の中心でした。しかし、2018年頃から、地方の活力低下が放置されているのも、初等中等教育が歪められているのも、大学に大きな問題があり、その抜本的な改革が不可欠との認識で一致するようになりました。旧態依然とした大学が大都市圏に集中し、大学進学を機に地方の若者が大挙して地元を離れる構造を断ち切り、このスライドに列挙したような地域の課題を解決して地域のニーズに応えるには、地方に地域課題解決の役割を果たす高等教育機関が分散して存在する必要がある、しかも低学費が絶対条件だ、ということから「地方分散小規模低学費大学」構想へと展開しました。

そのような中で、諏訪の地元である山梨県北杜市にそのような大学を作るとどのような具体的なイメージになるか、を描いてみたのが下の図です。この北杜共創大学構想については、NPOのブログ八ヶ岳SDGsスクール | 小規模分散型低学費大学設置の必要性 – 八ヶ岳SDGsスクール (yatsusdgs.com)八ヶ岳SDGsスクール | 北杜市に大学を! – 八ヶ岳SDGsスクール (yatsusdgs.com) )などで、述べてきていますが、要点を簡単にピックアップすると、メインキャンパス以外に研究センターが市内の各町に分散して存在すること、市内の全世代の住民が受講したり研究センターの活動に参画したりすること、ここには書かれていませんが、MOOCsの利用なボランティア的な講師陣主体の授業運営で国公立大学の半分以下の低学費にすることなどです。この構想をかつて合田哲雄氏(当時文科省初等中等教育局財務課長、現内閣府(科学技術・イノベーション担当)審議官にお話ししたところ、「まさにこのような大学がこれから求められているのです。」との返答をいただき、ぜひとも近い将来に実現したいと思った次第です。そして今回の構想は、小中学校の垂直統合と高校普通科改革による地域探究科創設とこの地方分散小規模低学費大学構想をドッキングさせ、さらにその先の「地域の学習共同体」にまでイメージを膨らませたものです。

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