設立趣旨

本NPO法人「八ヶ岳SDGsスクール」は、地域の教育の質を飛躍的に向上させることを通して、持続可能な地域社会の構築に寄与する活動を行うことを目的として設立する。

持続可能性の危機

私たちの住む地球も、また地域社会も、生態的・社会的な持続可能性の危機に直面している。地球温暖化については、かつては日常生活の中では意識しにくかったが、近年は異常高温と集中豪雨の頻発で実感させられることが多い。異常高温は日常化しており、日本列島は毎年のように巨大な台風や集中豪雨襲われ、甚大な被害を受けている。

一方、2018年の日本における出生数は92万人を割り込んだのに対し、死亡数は136万人。44万人以上の自然減少であった。日本は世界に先駆けて少子高齢化社会に突入しただけでなく、人口減少社会の道を歩み始めている。特に地方では、少子高齢化と人口減少によって、耕作放棄地の増加、獣害の増加、学校の統廃合、道路や橋梁その他のインフラの劣化など、地域社会の持続可能性を脅かす状況が、刻一刻と進行している。

少子高齢化と人口縮小によって持続可能性が脅かされている地域に再度活力を取り戻すには、若者世代が再び地方に戻り、そこに生活の拠点を置くようになることが求められている。そのことを実現するうえで、欠かすことのできない要素が優れた教育環境である。

このような生態的・社会的な持続可能性の危機の解決に向けて、今、すべての人々が総力を挙げて、叡智を寄せ合って取り組むことが求められている。学校教育においても、新学習指導要領の前文で「持続可能な社会の創り手」を育むことが掲げられている。それぞれの学校でも、その実現に向けてこれから様々な努力がなされるであろう。しかし、学校内での努力だけで、「持続可能な社会の創り手」を育むという役割を果たすことは困難である。NPOという学校外の組織が学校をサポートしたり、学校では実践しにくい活動を肩代わりしたりすることで、優れた教育環境を生み出すことが可能となるはずである。

既存の公教育の軋み

近代公教育制度は、国家に有意な人材を大量に育むことを目的として約150年前に成立した。その後、教育を取り巻く社会は大きく変わり、人々の求める教育も大きく変わってきている。それにも関わらず、完成度の高いシステムであったがゆえに、また、その利権を固守しようとする力が存在するがゆえに、今日もなお、その原型が姿をとどめ、各方面に軋轢をもたらしている。

近代公教育制度は競争の原理を根底に据えている。競い合わせることで活力を高める一方で、勝者の背後に多くの敗者を生み出す構造であった。また、20世紀末ごろから色濃くなってきた新自由主義的な思潮や政策が学校教育にも及ぶことで、軋みに拍車がかかるようになった。「自己決定・自己責任」や「効率」を重視する教育政策が学校教育に取り入れられるようになると、そのことに起因する様々な歪みや格差がより大きなものになっていった。

教員の過労も、今日の学校教育の軋みの一つと言える。学校の管理責任者である文科省や教育委員会、あるいは学校の管理職が「責任」や「効率」を重視し、管理を強めると、その皺寄せは教員に及び、過労につながっている。

このような軋みを緩和したり解消したりするには、学校だけの努力や学校制度の改革だけでは限界がある。学校教育についてもある程度熟知するとともに、持続可能な社会を構築するためにどのような要素が求められるのかを理解し、その求められるものを提供できる地域密着型の学校外組織、それがNPO法人「八ヶ岳SDGsスクール」である。そして、活動の根幹をなすのが、次に述べる「SDGsの学び」と「共創型対話」である。

SDGsの学び」の推進

このような状況の中で、NPO法人「八ヶ岳SDGsスクール」は、以下に述べるような「SDGsの学び」を普及・定着させることで、冒頭に述べた、「地域の教育の質を飛躍的に向上させ」、「持続可能な地域社会の構築に寄与する」ことを目指す。

「SDGsの学び」とは、2015年の国連持続可能な開発サミットにおいて全会一致で採択された「我々の世界を変革する:持続可能な開発のための2030アジェンダ」に盛り込まれた持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals、以下SDGs)を根幹に据えた教育である。SDGsは、2030年までに達成することを目指す17の目標と169のターゲットからなり、17の目標はカラフルなロゴと簡明な標語で表現されている。SDGsには、諸国家の利害対立を乗り越えて持続可能な社会を構築しようという意思が込められている。すべての国連加盟国の合意を得るために、踏み込み足りない不十分な部分はあるが、産業界からも目標達成に協力する姿勢が示されており、持続可能な社会を目指す大きな潮流となりつつある。

「SDGsの学び」の目標は、持続可能な世界、持続可能な社会の創り手の育成という面では、新学習指導要領において新たに明記された「持続可能な社会の創り手」を育むとした教育目標と同じである。しかし、創り手を育成するレベルにとどまらず、学びそのものが17の目標の達成に何らかの貢献をすることも目標となる。つまり、将来の貢献の準備のための学びという段階にとどまらず、具体的な活動に参画して実際に貢献することをも視野に入れた学びと言える。

「SDGsの学び」の学習内容は、SDGsの17の目標のすべてにとどまらず、持続可能な社会にとって重要な事柄は、学習の対象に加わる。例えば、SDGsでは触れられていないが、「難民」「ゲノム編集」「ビッグデータの独占」「放射性廃棄物」「核兵器」など、人類社会を不安定にさせたり、将来世代にとって負の遺産となったりする事柄も含まれる。重要な点は、従来の学校教育における学習と異なり、教科ごとに分かれた学習ではなく、取り上げるテーマに関連する学習内容を総合的、統合的に学ぶことになる。

「SDGsの学び」では、教育方法においても従来の知識を注入する方法は影を潜め、SDGsの目標を達成するために求められる課題の解決が中心となる。そのため、学習者主体の学びとなるのは言うまでもなく、学習者同士が協力し合うことが不可欠となる。

人類の果てしない欲望がもたらす結末の重大な事態に気づいた人類が、世界中の人々が協力して、ほころびを紡ぎなおし、生態的・社会的な持続可能性を回復させようという試みこそがSDGsであって、その実現の前提となるのは、欲望の充足という価値観からの根底的な転換・変容である。「SDGsの学び」においては、この文明史的転換という認識が不可欠である。このように、「SDGsの学び」は、従来の学校教育の主流であった教科中心の学びとは一線を画す新しい学びである。

「共創型対話」の重視

NPO法人「八ヶ岳SDGsスクール」の活動の、もう一つの根幹をなすのが「共創型対話」である。「共創型対話」は、本NPOの顧問である多田孝志が指摘してきたことである。これからグローバル時代、多文化共生時代に求められる重要な力が対話力であり、その中でも価値観や文化的背景が違う人々との間で「相互理解を基調に置く多様性の容認と尊重・活用による叡智の共創」を生み出すのが、「共創型対話」である。

人口減少社会に入った日本では、外国籍人口がじわじわと増加している。2017年の在留外国人数は,前年末比で7.5%増加しており、総人口の約2%に達している。今後もこの傾向が一層進んでいくことは確実で、日本社会が多文化共生社会に向かうことも必然である。そのような社会の中での対立や争いを相互理解に導き、課題解決に向けて共に叡智を出し合い、新たな社会を創造していく力が共創型対話力である。

共創型対話力は、外国人とのコミュニケーションにのみ求められるのではない。日本人同士の間でも、利害の対立を乗り越えて、地域の課題解決を進めるうえでは不可欠な力である。つまり、持続可能な社会を構築しようとした場合の最も求められるジェネリックスキル(汎用力)といえよう。

共創型対話力を身に着けるうえでの要点は多田孝志の著作に縷々述べられているが、小中学生段階では、異質で多様な他者との出会いの場をどれほど経験するかが肝心である。しかし、多くの学校では、そのような場を設けようとしても現実には困難である。そこで、学校の外に拠点を置くNPOが、異質で多様な他者との出会いの場を準備し、そこで「共創型対話」に導く体験を提供できるようにすることが求められている。

上に述べた「SDGsの学び」にしても「共創型対話」にしても、教育手法であるとともに、高い志に基づく哲学的理念でもある。

NPOとしての具体的活動

小中高生を対象とした学習支援

広い意味での学習支援の学校外組織としては、発達障害の児童生徒や不登校児を対象にしたものから、中国の青少年科技館のように学校で学ぶ理数系の授業より高度なものを学ぶものまで多様で、地域におけるニーズとNPOに参加するメンバーの得意分野によってさまざまなものがありうる。このNPO法人「八ヶ岳SDGsスクール」の場合、地域の活性化につながるものになるということと、今後の多文化共生社会をも意識した多様性を重視したものを重視したい。

教育委員会とタイアップした学校支援もありうるであろう。今の子どもたちに求められながら、学校の枠組みの中で十分に行えていないのが豊富な実体験を伴う活動である。単なるボランティアとして学校主導の活動をサポートするのではなくNPO側で今の子どもたちに求められる活動を企画し、そこに子どもたちを参画させるようなものが望ましい。特に、地域のフィールドワークを通して子どもたち自身が地域の魅力と課題を発見し、地域の魅力を発信したり課題を解決したりするプロジェクトを、NPOのメンバーと子どもたちが一緒に遂行することは、きわめて有効であろうと思われる。

②教員・保護者対象の研修会

現職の教員や保護者を対象にした、新しい教育方法を習得してもらうための、例えば「アクティブ・ラーニング実体験講習」のような事業も、地域の教育力の向上をもたらし、回りまわって移住者を呼び起こすことにつながる可能性を持つものであろう。現在、日本環境教育フォーラムが実施している教員のファシリテーション能力向上を目的とした教員免許更新講習を、それぞれの地域の教育委員会に橋渡しをして誘致・開催することも地域の教育力向上に有効であろう。

③コーディネーター養成

これからの「地域とともにある学校」を実現させるうえでは、地域と学校をしっかり繋ぐとともに、教員の負担を軽減するためにも学校コーディネーターの役割が重要となる。しかし、学校コーディネーターあるいは教育コーディネーターの養成は、島根大学などの一部を除いて、ほとんどなされていない。学校文化を熟知した停年退職教員が関与するNPOであれば、コーディネーターの養成という領域も、カバーできるはずである。

④大学のフィールドワーク的授業の受託

上述のフィールドワークは現代の大学生にも求められる。学生が初対面の人にインタビューをしてその結果を書き込むようなワークシートを用意すると効果が高いことも確認している。初対面の人に声をかける緊張感と、応答してもらった後の満足感が大きかったことを感想に書く学生が多い。

この経験から、NPOの活動領域として、大学生を対象としたフィールドワークの実施があるのではなかろうか。つまり、大都市圏の大学に呼び掛け、フィールドワークの授業を誘致しようというものである。仮に一週間という短い期間でも地域を歩き、地域の人々から話を聞き、地域の人々と共に課題の解決に一緒に取り組む経験をすると、まさに「一皮むけた」新たな価値観を持つ大学生に変身するはずである。そのようなフィールドワーク経験学生の中には、将来地域を生活基盤にする者も誕生すると期待できる。

⑤「SDGsの学び」と「共創型対話」を促す教材の作成

「SDGsの学び」と「共創型対話」を広めるには、教材も不可欠で、それらの教材作成も、本NPOが取り組むべき重要な役割である。従来のマンネリ化した無駄の多い教科書に代わって、学校現場からも「こういう教材がほしかったのだ」と言われるような教材を作成して提供していきたい。具体的には、視野を広め深い学びを促す「ジャンプの課題」と、実物との出会いを重視した「フィールドワークの勧め」をたっぷりと取り入れた教材の作成を目指したい。

将来構想

地域密着型低学費大学の設置

最後にNPO法人「八ヶ岳SDGsスクール」の将来の発展について夢を語っておきたい。

幕末に日本各地に誕生した私塾のいくつかは、今日の私立大学に成長している。残念ながらそのいくつかは拠点を大都市部に移し、私立大学の大都市圏集中に加担している。しかし、地域の再生を担う人材の育成は、地域密着型であることが望ましい。大学の新規設立を阻んでいる大学設置基準も、アメリカで爆発的な拡大を示しているMOOCs(Massive Open Online Courses:インターネットを介した大規模な無料公開講義)が日本でも本格化すると、抜本的改革を余儀なくされるであろう。

地域全域を活動地域とし、有り余る既存の公共建築物とし、超停年棒であっても「生きがい」を優先するリタイア層を存分に活用した調低学費の大学をNPO法人「八ヶ岳SDGsスクール」が将来設立することが」できれば、地域で育った青少年が大都市圏に出ていくことなく、地域に残り、地域のために学ぶことになる。

NPO法人「八ヶ岳SDGsスクール」の設立には、そのような将来の夢も付随している。

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