「SDGs未来都市」のプラン作りの核心
9月13日に八ヶ岳中腹のサンメドウズ清里スキー場で開催された野外フェス「ハイライフ八ヶ岳」のトークステージでお話しする機会をいただきました。テーマは「北杜市に大学を!」でしたが、前半では、当NPOで構想を膨らませている「SDGs未来都市」にエントリーするためのプラン作りについて話しました。しかし、限られた時間でしたので、その場では「SDGs未来都市に選定されるための4つのポイント+α」については、項目を挙げるにとどめました。今後、「SDGs未来都市」のプランを練り上げる上では重要ですので、少し補足いたします。
どのようなプランを練り上げれば、SDGs未来都市に選定されるのかについては、「2020 年度SDGs未来都市等募集要領」や、「ヒアリングを踏まえた委員のコメント例(令和 2 年度SDGs未来都市選定自治体)」をみると、様々な観点からのプラン作りが求められていることがわかります。それらの中で、「これだけは絶対に外せない」と感じた4つについて、北杜市を例に挙げながら独善的な見解を述べていきたいと思います。
1.その地域が直面している地域固有の課題は何か?
日本のどの地域にも当てはまる「少子高齢化」や「人口減少」に伴う活力低下といった課題もさることながら、その地域ならではの課題を取り上げて、その課題にどのように取り組むのかが問われています。
例えば北杜市には、日照時間の長さを利用して太陽光発電施設の建設をさらに促進すべきか、それとも美しい景観の保全を優先させるべきか、という市民の意見を二分する難題があります。また、年々増加する耕作放棄地対策として、基盤整備整備事業を行って大型農業用ハウスを誘致すべきか、それとも若年人口減少対策として優良田園住宅建設促進法などを活用した移住促進を優先させるべきか、という課題もあります。
2.その地域が2030年にどのような姿になっていることが望ましいか?
つまり、これから10年後にこうなっているといいな、という姿を描き、そのために今からどのような手立てを講じていけば、それを実現できるのか、についてのイメージをしっかりと描く必要があります。将来のある時点から時間を逆にたどることで、現時点でどのような行動に着手すべきかを考えるバックキャスティングという手法です。
北杜市の場合、2020年時点の年少人口(0~14歳)が約3800人。現在の趨勢が続くことを前提とした国立社会保障・人口問題研究所の試算では、2030年には年少人口が2900人弱と約4分の3に減少すると見込まれています。仮に、2030年時点でも、現在の約3800人を維持したい、というのであれば、これからどのような事業を展開すればそれが可能になるかを考えねばなりません。ハイライフ八ヶ岳のトークステージの後半で、私たちのNPOが将来構想として提案した「北杜市に大学を!」は、その一つの解答です。
3.経済・社会・環境の3側面の自律的好循環
SDGsの17の目標は、おおむね経済・社会・環境の3側面に分けて捉えることができます。そして、それらが相乗作用を発揮するように推進することが、世界の持続可能性を確保するうえで極めて重要とされています。同様に地域課題の解決においても経済・社会・環境の3側面からのアプローチが統合されて好循環を生み出すことが求められています。
仮に北杜市が、環境という視点から2030年にCO2排出ゼロという目標を掲げた場合、バイオマスエネルギー施設の設置や水素社会を視野に入れた水素ステーションの開設といった経済的なアプローチが不可欠となります。また、脱化石燃料に向けた消費者サイドでの受け入れ態勢を整えるという社会的なアプローチも不可欠となります。それら3つの側面が統合されて自律的な好循環を生み出すには、非常に綿密なプランを練らなければなりません。
4.多様な組織・団体の連携
1から3で述べたような要求を充足させるプラン作りは、自治体の一つの部署でできることではありません。縦割り意識を払しょくして、各部署が密な連携をする必要があります。また、「SDGs未来都市」の申請主体は自治体ですが、自治体だけでできるものでもありません。企業や商店街、NPO、社会教育施設などの多くの組織や団体の総力を結集して、プラン作りをしなければ、算定されるプランを作り上げることはできません。
実は、この「SDGs未来都市」にエントリーするだけでも、様々な組織や団体の連携・協力関係を強固にするという大きな効果が生まれます。利害の対立する組織や団体同士がプラン作りという共同作業を進める中で互いに対する理解を深め、折り合いをつけるという過程が必ず生じます。このような協同作業こそが、その後の地域にとって大きなプラスになることは言うまでもありません。
選定を決定づける+α
上記の4点は、どれが欠けても選定の対象から外れると断言できる項目です。しかし、これまでに選定された自治体のプレゼンをじっくり見ていると、「ふーん、なるほど、そうきたか」という、斬新で魅力的な+αのアイディアが盛り込まれています。
北杜市がエントリーする際にも、二番煎じでない斬新で魅力的な+αのアイディアを盛り込むことが求められますが、それは一体何でしょうか。
すぐに思い浮かんだのが「子どもたちの参画」です。
ロジャー・ハートの『子どもの参画』からのパクリであることは、率直に認めなければなりません。しかし、これまでに選定された自治体のどのプレゼンをみても、プランニング段階や事業遂行段階で「未来都市」の主役である子どもたちが登場しているものはほとんどありません。
北杜市のエントリーに当たっての斬新で魅力的な+αは「子どもたちの参画」で決まりです。
「子どもたちの参画」が斬新で魅力的な+αになりうる理由はいくつかあります。まず、子どもたちといえども大人たちに負けないほどの斬新で柔軟なアイディアを発信できるからです。2030年やそれ以降の生態系や社会の持続可能性は、まさに自分たちの問題ですので、プランニングにおいても事業の遂行においても真剣に取り組みます。2番目の理由は、大人たちもいつも目の前に「未来都市」の主役である子どもたちがいれば、本気になって子どもたちのためにもいい町を作らなければと思うからです。子どもたちが見つめていれば、みっともない利権争いを繰り広げて足を引っ張り合うようなことはなくなるはずです。
「秘密兵器のはずの斬新で魅力的な+αを事前にホームページで公開してしまっては、秘密兵器にならないよ」「ほかの自治体も真似するじゃない」というご心配は無用。北杜市が「SDGs未来都市」に選定されるよりも、選定される5番目の必要条件として「子どもたちの参画」が位置づけられることの方がはるかに重要だからです。