教員免許更新講習と「SDGs時代」
『SDGs時代の教育』、『SDGs時代のパートナーシップ』『SDGs時代の平和学』などの書名にもあるように、「SDGs時代」という言い方が広がっている。と、他人ごとのように書いたが、筆者自身、今春の教員免許更新講習でも、またこの夏の免許更新講習でも、「SDGs時代の学校教育」という1時間半ほどのセッションを担当している。
内容は、新学習指導要領のキーフレーズである「持続可能な社会の創り手」を軸に、ESD(持続可能な開発のための教育)からSDGs(持続可能な開発目標)への展開や、学校でSDGsに取り組んだ先進的な実践事例について解説・紹介するとともに、アクティビティを交えて学びを深めてもらうというものである。そのセッション全体を通して受講者に伝えたい事柄を一言でいうと、「“SDGs時代の学校教育”となるのかな」と、軽い気持ちでこのセッション名を主催者に提示し、そのままプログラムに掲載されることとなった。
受講者に学習院大学のキャンパスに集まってもらって対面で実施できた春の研修では、受講者の様子を伺いながら、あるいは受講者からの質問に応じて補足的な説明が可能であった。しかし、この夏の免許更新講習はオンラインで行うことになったため、受講生が疑問に感じそうなところをあらかじめ丁寧に説明するようにしておこうと、使用するパワーポイントも充実を図ることにした。そこですぐに充実すべき対象として浮上したのが、本エッセーのタイトル“「SDGs時代」って何?”であった。
SDGsの理念が示唆する重要な分岐点となる時代
SDGs(持続可能な開発目標)は、2015国連持続可能な開発サミットで採択された 「我々の世界を変革する 持続可能な開発ための 2030アジェンダ」に盛り込まれた17の目標と169のターゲットを指す。しかし、SDGsを語ろうとした場合、「2030アジェンダ」の前文や本文に記述された理念を抜きに語ることはできない。
「2030アジェンダ」の前文の最初のパラグラフで、「貧困を撲滅することが最大の地球規模の課題であり、持続可能な開発のための不可欠な必要条件であると認識する。(外務省仮訳)」と明確に記述し、「貧困の撲滅」が「持続可能な開発の必要条件」という認識を示している。また、第2パラグラフの末尾では、「誰一人取り残さないことを誓う」と述べて、落伍者を生み出す競争社会や、自分さえよければよいという考え方との決別を表明している。そして、それを実現するには「我々の世界を変革する」必要があることをアジェンダの冒頭に掲げて訴えている。SDGsの17の目標と169のターゲットは、何を取り上げて、どのような手段で我々の世界を変革すべきかについての具体的な提案とみることができる。
この高邁とも思われがちな理念を掲げた背景には、社会的・生態的な持続可能性の危機が、もはや猶予のならない段階にまで来ているという認識に基づいている。つまり、「SDGs時代」とは、社会的・生態的な持続可能性の危機という、人類が直面する課題に対して、あらゆる国家、あらゆる組織、あらゆる人々が協力してその解決に取り組むことが求められている時代であり、実際に取り組みが進んでいる時代ということができよう。
我々の世界を変革して、持続可能な社会を構築できるのか、それとも、自己の利益を主張し続けて争いに明け暮れたり、直面する課題解決の行動に着手せずに無為な時間を過ごしたりすることで、取り返しのつかない事態になってしまうのか。その分かれ道に差し掛かっている時代と捉えることもできる。