学校教育とSDGs

2020年11月15日

小学生の異変(その1)

増え続ける小学生の問題行動・不登校等

「令和元年度 児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果」が2020年11月13日に文科省から公表されました。10月下旬には報道資料が教育委員会やマスコミに流されてテレビや新聞で報道されましたが、学術会議の学術会議の任命拒否問題、アメリカ大統領選挙、そしてコロナの第3波が大きく取り上げられる中で、あまり大きく取り上げられなかったように感じています。しかし、以下の3つのグラフを見れば、特に小学生について状況がいよいよ深刻になっていることは一目瞭然でしょう。

https://www3.nhk.or.jp/news/html/20201022/k10012676031000.html

「小学生の異変」に対する文科省の受け止め方

このような「小学生の異変」について、文科省では、2013年度(平成25年度)ごろから異変が顕在化したと捉えています。2019年8月の日本教育学会大会のシンポジウム「持続可能な社会と教育」に登壇した合田哲雄氏(当時:文科省初等中等教育局財務課長)は、このことに関連して次のように述べています。

今、子供たちや学校を取り巻く社会的な環境の激変が我々の予想を超えた規模とスピードで進行しています。子供たちの語彙や読解力のばらつきが生じたり、小学生の暴力行為が2013年以降急増したりしている現実があります。(中略)小学校高学年の子供たちの心身の発達や指導内容の高度化で、一人の学級担任がすべてを受け持つことが難しくなっているのではないか、あるいは、少子化・過疎化による少人数学校は子供たちが切磋琢磨して協働する環境として適切か、という声も生じています。

また、中教審初等中等教育分科会が10月に示した「「令和の日本型学校教育」の構築を目指して」(中間まとめ)でも、以下のように重大な問題であることは認識しています。

様々な生徒指導上の課題も生じている。平成 30(2018)年度の小・中・高等学校におけるいじめの認知件数や重大事態の発生件数,暴力行為の発生件数,不登校児童生徒数はいずれも増加傾向にあり,過去最多となっている。加えて,平成 30(2018)年の小・中・高等学校における児童生徒の自殺者数も減少するに至っていない。いじめの認知件数の増加は,いじめを初期段階のものも含めて積極的に認知し,その解消に向けた取組のスタートラインに立っているとも評価できるが,特に,いじめの重大事態の発生件数や児童生徒の自殺者数の増加は,憂慮すべき状況である。また,児童相談所における児童虐待相談対応件数についても増加傾向にある。(p.8)

しかし、特別支援学校(学級)在籍者の増加、外国籍児童生徒数の増加、子供の相対的貧困率の上昇などと並列して、「子供の多様化」と矮小化して捉えており、その他の教職員の長時間労働による疲弊などの問題を指摘しながらも、以前にこの欄で紹介したように、「このためには「我が国の学校教育の在り方を根本から見直さなければならないのか」 という疑問が生まれ得るが,そうではない。(p.13)」と断言しています。

また、具体的な対応について列記した各論においても、

〇不登校児童生徒,障害のある児童生徒,日本語指導が必要な児童生徒について,学 校間,保護者,関係機関と児童生徒の状況を共有し,支援しやすい環境を構築するた め,統合型校務支援システムの活用や帳票の共通化などを通じ,個別の支援計画等の 作成及び電子化を進めることが必要である。(p.61)

と、述べるにとどまり、有効な対応を打ち出せていない状況です。

「最終講義」でのダイヤモンド・ランキング

筆者は2020年1月下旬の「最終講義」でこの問題を取り上げ、1年前のグラフをパワーポイントで示したあと、以下のような「ダイヤモンド・ランキング・・小学生の異変の原因は?」というワークシートに原因の順序付けをするアクティビティを実施しました。

このアクティビティでは、この個人作業の後に、周りの人たちと互いにワークシートを見せ合いながら、意見の交換してもらいました。最終講義の間に挟んだアクティビティだったので、意見交換の時間は5~6分ほどしか取れませんでしたが、教育に関わる参加者が多かったこともあって、真剣に意見を交わしていました。

返却してもらった106人分のワークシートを集計すると、Bを一番上に持ってきた人が64人、Aを一番上に持ってきた人が23人でした。それとは別に、上記のワークシートの下に「そのほかの理由」という空欄も設けておきましたが、驚きだったのは、そこに記入した方が8割以上を占め、空欄の枠の外にまで記述した方が多数に上ったことです。自由記述では多くの方が少子化や核家族を挙げていましたが、ほかにも例えば以下のような、「なるほど」と思わせる意見が多数寄せられ、「小学生の異変」に対する関心の深さが伺われました。

・祖父母の過保護、あるいは幅広い年代と触れ合う機会がない。

・「さん付け」の強要など、教員と子供が社会的に距離感を置くようになった。

・子どもの学校教育システムへの異議申し立て

・「今だけ、金だけ、時間だけ」「自己責任論」による大人社会の歪みの反映

・片親家庭、貧困家庭の増加、地域で支える仕組みがない

・親の愛情がフルタイムで注がれている時間が減ったこと

・子どもたちにも保護者にも、学校・教員に対して「消費者」のマインドで臨む場面が多くなっている

・責任を取らない大人の、とくに「リーダーたち」の姿勢も

・子ども期に関わる人の数が、人類史上最も少なくなっている

・集団生活に適応させる訓練を家庭(大人)がしていない。子供より大人の考え方、行動に問題があるのでは?

・同一年齢、同質の集団による一斉授業に大きな原因があるように思います

・SNSの普及により、他人を攻撃することに感覚が慣れてしまっている

ゲーム機器やスマホの普及と外遊び時間の減少

A(ゲーム機器やスマホの普及で外遊びの時間が減った)については、上記のように最重要と考えた参加者は2割強でしたが、欄外の書き込みからA以外を最重要としながらも、Aも大いに関係していると感じておられる方も多数でした。「最終講義」では、アクティビティ終了後に以下の3枚のスライドを示して、Aも少なからず関与している可能性が高いことを話しました。

ゲーム機器に長時間接することの危険性については、2005年に精神科医として医療少年院に勤務していた岡田尊司氏が『脳内汚染』(文藝春秋)の中で、仮想と現実を混同させ、中毒性があり、脳の発達を妨げるという警告を発しています。ゲーム機器やスマホが子どもたちの世界にどんどんと進出することで、「ホンモノ」と出会う機会が減少していることも大いに気がかりです。子どもを静かな「いい子」にさせるために、タブレットで動画を見せ続けている親も見かけます。「ホンモノ」と出会う機会をしっかりと設けることも、学校に期待されているのかもしれません。(続く)

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