学校教育とSDGs

2020年11月3日

「地域連携プラットフォーム」と未来の高等教育

Platform≒Plateau(台地)≒Plate(皿、板)

「ホームの端を歩かないでください」というアナウンスや、「酔っぱらってホームから転落!」というニュースを聞きながら、「プラットフォーム」はすでに死語になったのかと感じたのは20年以上も前のことです。小学生の頃、といってももう60年以上前のことですが、駅で列車に乗る場所は「ホーム」ではなく「プラットフォーム」と言っていました。

その「プラットフォーム」という言い方を数年前にどこかのNPOが使っていて、「??」と反応した記憶はありますが、改めてその意味を確認しようとは思いませんでした。しかし、2018年11月に「2040 年に向けた高等教育のグランドデザイン」答申が発表され、そこで、「地域連携プラットフォーム(仮称)」構想が打ち出されたことで、プラットフォームという言葉が甦っていることを思い知りました。

もっともそれはコンピュータ音痴(あるいはデジタル拒否症候群)の私の特殊事情であって、コンピュータの世界では、ずいぶん前から「アプリケーションが作動する土台となる環境」のことをプラットフォームと言っており、死語にはなってなかったようです。

ここで「プラットフォーム」のことを取り上げるのは、これからの高等教育の基本的な姿の一つが間違いなくプラットフォームという概念と不可分のものとなると予測されるからです。

駅のプラットフォームは中国語では「平台pingtai」と言っています(「月台」とも言います)。「平ら」であるということは、その上に立つ人や組織はランク分けされず平等であるということです。それでいて「台」ですから周りより一段高くて広い場所でもあります。

「地域連携プラットフォーム」と「ガイドライン」

「2040 年に向けた高等教育のグランドデザイン」(答申)では、「関係する産業界、地方公共団体などと連携し、必要とされる教育研究分野、求人の状況、教員や学生の相互交流などについて、恒常的に意思疎通を図る」場を「地域連携プラットフォーム(仮称)」とし、これからの地域の高等教育機関にとっては、「学外の教員や実務家など多様な人的資源を活用し、多様な年齢層の多様なニーズを持つ学生を受け入れていくために必要」な体制と捉えています。「プラットフォーム」の原義を生かして言い換えると、「地域連携プラットフォーム」とは産官学が対等の立場で連携協力し、地域の活性化に取り組むための「場」ないし「体制」といえるかと思います。同答申には「地域連携プラットフォーム(仮称)」が十数回も登場しており、「地域連携プラットフォーム(仮称)」において議論すべき事項等について、国による「ガイドライン」を策定する」とも書かれています。

上記の答申段階では「策定する」と書かれていた「ガイドライン」は、2020年8月に<案>「地域連携プラットフォーム構築に関するガイドライン ~地域に貢献し、地域に支持される高等教育へ~」が示されて、パブリックコメントの応募がありました。

この<案>には従来のコンソーシアムやネットワークでは連携の範囲が限定的であったり効果が不十分であったことの指摘に続いて、p.5には「地域連携プラットフォーム」が必要とされる根拠などが、以下のように書かれています。

・・・地域課題の解決に向けた連携協力の抜本的な強化を図るとともに、地域の大学等の活性化やグランドデザインの策定、高等教育機会の確保や地域人材の確保、大学等を含めた地域社会の維持発展を図るための仕組みが「プラットフォーム」です。

プラットフォームの構築により、大学等が、地域において欠くことのできない重要な存在であるという位置づけを確立することが期待されます。そして、地域において欠かすことのできない存在だからこそ、地方公共団体や産業界等が、地域課題の解決に向けてのみ大学等と連携するのではなく、大学等の教育研究活動そのものを支える存在になるといったことも期待されます。

最後の一文などから、入学者減で存続の危機に直面している地方大学の延命策と見なす向きもあります。しかし、高等教育機関を軸とするプラットフォームは、これからの地域の活性化にとって不可欠な存在となることが書かれています。

文科省は、2020年9月に発足させた「地方創生に資する魅力ある地方大学の実現に向けた検討会議」の第1回検討会議に「魅力ある地方大学の実現に向けて」という資料を提出していますが、そこには上記ガイドラインの概略紹介ともいえる2枚のシートが付されていますので転載します。

「魅力ある地方大学の実現に向けて」の一部

上のシートでは、「地方自治体×大学等×産業界」が地域人材育成の基本形であることが示されており、それを実現するための方策が「地域連携プラットフォーム」と「ガイドライン」であることが下のシートの左側で示しています。

「SDGs未来都市」とプラットフォーム

ところで、「プラットフォーム」という言葉は、「SDGs未来都市」のプレゼン資料にも頻繁に登場しています。「SDGs未来都市」で重視されている様々な団体や組織の連携協力を図り、事業を円滑に進める土台としてプラットフォームの構築を掲げたものは、2020年度に選定された33自治体の約4割に及んでいます。その代表的なものを転載します。また、「プラットフォーム」という名称は使っていなくても、SDGs推進協議会や官民連携推進会議といったプラットフォームに相当する組織の構築を謳っている自治体を加えると7割には達しています。

相模原市のプレゼンより

「地域連携プラットフォーム」に高等教育機関は不可欠

上記の「SDGs未来都市」におけるプラットフォームの多くは、そこに高等教育機関が関与したものとなっていますが、中には川崎市のように、高等教育機関の関与が明確でないものもあります。一方、文科省高等教育局が示した「地域連携プラットフォーム構築に関するガイドライン ~地域に貢献し、地域に支持される高等教育へ~」は、地方の大学の関与を前提としたプラットフォームです。

それでは、地方創生を目的として様々な組織・団体の連携・協力するための体制として構築されるプラットフォームに高等教育機関は必要でしょうか?それとも、無くても構わないものでしょうか?

川崎市のようにすでに先端企業がひしめき合っている自治体はともかく、地域の活性化が切実な地方都市では、プラットフォームの中に高等教育機関が加わるのは必要不可欠であると考えています。もし、そのような高等教育機関が近隣にも存在してないのであれば、小規模なものでもよいので設立すべきであると思っています。その理由は、上に転載した「魅力ある地方大学の実現に向けて」の「地方大学の目指す方向性」にある文章を少し変えてみれば明らかです。

・地域のニーズに応えるという観点からも充実し、知の拠点として地域ならではの人材を育成・定着させ、地域経済・社会を支える基盤となること(⇒地方の大学)が必要

・地域特性・ニーズを踏まえた人材育成やイノベーションの創出・社会実装に取り組む地方大学の(存在とその)機能強化、活性化が重要

・地方公共団体、地域の産業界等と密に連携し、文理の枠にとらわれないSTEAM人材の育成や地元企業へのインターンシップ・リカレント教育の拡充(には地方に大学が不可欠)

・Society5.0社会の実現にとって不可欠な数理・データサイエンス・AI教育の推進やオンライン教育の活用により、地域において新たな産業や雇用を創出し、地方創生の中核となることを目指す(地域に密着した大学が必要)

要するに、地方創生や地域の活性化には、高等教育機関が不可欠ということです。

地方大学の危機を克服し、新たな高等教育機関を設立するために

しかし、現実には下の表にあるように、地方の中小規模大学の半分近くがすでに帰属収支差額比率がマイナス、つまり赤字状態で存続が危ぶまれている状態です。今後、18歳人口の減少により、閉校を余儀なくされていくことは目に見えています。

私立大学の帰属収支差額比率
(出典:日本私立学校振興・共済事業団「今日の私学財政(H27年度版)」

では、一体どうすればよいのでしょうか。その答えの一つが前述の「地方公共団体や産業界等が、大学等の教育研究活動そのものを支える存在になる」ということです。しかし、そもそも赤字になる理由の根本には、文科省の一元的な管理の下で、硬直的で時代遅れの大学設置基準や、質保証という名目の規制強化があります。もっともっと低学費でも収支のバランスが取れる高等教育機関をつくることは可能です。

いずれにせよ、地域の活性化に求められている大学は、現在の大学とは大きく異なった姿をしています。高校卒業生が入学して学ぶだけでなく、地域に関わるすべての人が受講でき、フィールドワークに参加し、プロジェクトにも参画できるような大学です。そこに関わる教職員者のイメージもまったく今の大学とは違ったものです。

この「学校教育とSDGs」のコーナーでも、「小規模分散型低学費大学設置の必要性」というコラムを書きましたが、まだ、ほんの一端しか書いていません。どうすれば低学費大学を作れるのか、その時の大学はどのような姿をしているのかについて、改めて書きたいと思います。

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