ブックレット執筆のきっかけ
教育調査研究所のホームページに拙著『「学校週4日(+地域学校1日)」の可能性』がデジタルブックレットとしてアップされました。有償(650円)ですが、ダウンロードして読んでいただければ幸いです。
以下、そのブックレットにどんなことを書いたのかを掻い摘んで紹介したいと思います。
一言でいうと、現在の日本の学校教育には様々な課題が押し寄せており、それらの解決策として、「学校週4日(+「地域学校」週1日)」はどうだろうか、という提案です。つまり、子どもたちは従来型の学校に週4日だけ通い、地域社会が運営母体となる新たな「地域学校」に週1日に通うというもので、この構想の原形は、拙著『学校教育3.0』の付録で提示しています。しかし、原形に肉付けして再度持ち出ことになったきっかけは、2022年4月に内閣府内の教育・人材育成ワーキンググループが取りまとめた「Society 5.0の実現に向けた教育・人材育成に関する政策パッケージ」です。そこにはこれまでの学校の姿から懸け離れた大胆な改革構想が示されています。例えば、小中高の垣根を超えた学びや多様な人材が子どもたちの学びに参画する姿です。今日の日本の学校教育が直面する大きな課題に立ち向かうには、このような大胆な改革構想が求められていると受け取りました。しかし、それらを実現するには、従来の学校教育のシステムを温存したままでは混乱を生じさせるばかりで、実際の有効な改革に結びつかない、これまでとは異なる新しいシステムの「地域学校」のようなものを導入する必要があると判断したことが、本書執筆のきっかけです。
日本の学校教育に求められている3つの改革
現在の日本の学校教育は、①教員の長時間労働、②世界的な学校教育の高度化、③児童生徒の多様化、という3つの大きな課題に直面しています。そして、それらに対応するために、3つの改革、すなわち「教員の働き方改革」「21世紀型学校教育システムへの改革」「子どもたちのWell-being改革」が求められています。しかし、今日の学校教育システムの根幹維持を前提とした改善策の積み重ねでは、対応しきれない、という懸念から想起したものが、「学校週4日(+「地域学校」週1日)」という構想です。
「学校週4日(+「地域学校」週1日)」構想の大枠を図示すると、以下のようになります。
「教員の働き方改革」が求められているのは、広く認識されていると思います。そして教員に押し寄せた結果として、教員の長時間労働が恒常化してしまっています。教員の多忙は、教員志望者を減少させるというような悪循環をもたらしていますが、教員の専門性開発に時間がどんどん減少しているという問題が生じていることなども、本ブックレットは重視して取り上げました。児童生徒が学校に通う日を週4日に削減することで、教員が夜遅くまで学校で過ごしたり、専門性開発に時間が取れないという問題を解消させるのが学校週4日の提案です。
そこで削減された週1日をどうするかということに対して、地域社会が中心となって運営する「地域学校」の開設を本ブックレットでは提案しています。しかし、地域社会という新たなシステムは、単なる子どもたちの週1日の居場所づくりだけのものではありません。前述の内閣府の教育・人材育成政策パッケージの改革構想や、2019年にOECDのEducation2030 プロジェクトが提示した「ラーニング・コンパス2030」の核心といえる「変革をもたらすコンピテンシー(transformative competencies)」を獲得したりするための、既存のシステムから解放された新たな学びの場という役割を果たすことができます。また、現在の学校教育システムでは対応の困難な「子どもたちの多様化」に柔軟に対応して、「子どもたちのWell-being改革」を実現するにも役立つはずです。
デジタルブックレット『「学校週4日(+地域学校1日)」の可能性』の構成
本ブックレットでは第1章で上記の事柄をもう少し丁寧に説明した後、第2章では、教員の長時間労働について、長時間労働の実態とその要因、時間労働がもたらす悪循環、専門性開発の衰退を中心に詳しく説明しています。第3章では、世界の学校教育の高度化と求められる教師の新たな専門性について、前述のラーニング・コンパス2030、社会のデジタル化、イノベーションとSTEAM教育などを例に挙げて記述しています。
上に掲げた「学校週4日(+地域学校1日)」の構想図に即して詳しく記述していくと、次の章は、「子どもたちの多様化とウェルビーイング」というような章にすべきでしょうが、これについては、書きたいことが膨大ですので、次のブックレットに譲ることにしました。
第4章では、「地域学校週1日」の可能性について検討しています。地域と学校の関係を歴史的に振り返ったのち、「地域学校」で展開される活動候補例を示すことで、地域関係者も十分参画できるものであることを強調しています。そして最後に、この「地域学校」は、将来的には「地域の学習共同体」という、宇沢弘文氏が提起した「社会的共通資本」としての学校の姿への展開が見込まれるものであることを述べています。
なお、付録として、『学校教育3.0』で提示した「未来の教育ショートストーリー:20X0 年の日本の社会と教育」の抄録を加えています
以上の紹介を読まれて、「学校週4日なんて夢物語」とか、「今の地域社会にはそれだけの余力がないよ」と思われた方にこそ、ぜひ、本ブックレットをダウンロードしてじっくりと読んでいただきたいと思っています。