批判的思考法をクリティカルシンキングといいます。「批判」を辞書で調べると「批評して判断すること。物事を判定・評価すること」とあります。しかし、批判というと「良し悪し、可否について論ずること。あげつらうこと」という意味もあり、何かの文句や不平不満を言っている悪い印象があります。「あの人は私の言うことに対していつも批判してくる」、「批判ばかり言ってないで代替案を示しなさい」などと使われます。この文章での「批判」は勿論前者です。クリティカルシンキングとは、物事や情報を無批判に受け入れるのではなく、多様な角度から検討し、論理的・客観的に理解することです。ものの見方・考え方の視点を転換させることです。
例を示しましょう。歴史の授業で江戸時代の「享保の改革」は世の中をとてもよくした素晴らしい政治政策だったと習います。しかしそれは本当でしょうか。公事方御定書をはじめ新田開発の奨励や小石川養生所の開設、足高の制、目安箱の設置、相対済令、上米の制など積極的に世の中を改定し幕府財政の再建を図り一応の成功を収めました。
その中でも目安箱に注目します。徳川吉宗が政治を行う上での参考意見や社会事情の収集などを目的に、庶民の進言の投書を集めるために設置されて、投書は将軍自ら検分していた画期的な仕組みです。何段階もの階級社会であった当時、町民や農民が将軍本人に直訴ができたわけです。この制度は素晴らしいと大方の人々は喜びます。しかし、将軍と庶民の間にいる階級の人々にとっては幕府に対する要望や不満が続出されることで、将軍の意にそぐわないときはいつ辞めさせられるか気が気ではなかったと思います。立場という視点の転換で「享保の改革」ではなく「恐怖の改革」だったのではないでしょうか。
クリティカルシンキングはもっと身近なところでも使えます。人の言ったことを安易にそのまま受けいれてはいけないということです。こういうとひねくれた人間になることを推奨しているようですがそうではありません。例えば、新宿から甲府まで電車でいくとします。普通に考えれば「中央線一本で行けますよ」となります。しかし、より安い料金で到達したいと考えると実は京王線で高尾まで行きそこから中央線に乗り換えた方が安く行けるのです。中央線一本で行く場合でも乗車券の買い方をどこかで区切ることで安くなることもあります。まさに時間の視点から料金の視点に転換すると同じ目的地への道でも様々に考えられるのです。正に「急がば回れ」の発想です。
みなさんはこれからいろいろな経験を積んで生きていきます。その際、物事を判定し、評価していくことでしょうが、一つの見方・考え方で進んでいくと思わぬ落とし穴が待ち受けています。自分は信念を曲げないという人もいるでしょう。信念を持つことはよいことですが、どうか柔軟性を持って進んでいって欲しいです。そういう時にクリティカルシンキングを思い出し、縦からみていたものを横から見たり、立場を変えてみたり、考え方の視点を変えてみたりして充実した知性ある人生を歩んでください。