活動報告

2020年9月6日

小規模分散型低学費大学設置の必要性

日本の大学は大都市圏、特に首都圏に集中しています。そのため、高校卒業・大学進学を機に地方から首都圏に大量の若者が移動する現象がずっと続いてきました。「地方の活力を維持していくには、この流れを断ち切らねばならない。そのためにも、地方に魅力的な大学を作る必要がある」と考える仲間が、かねてより「アクティブ・ラーニング研究会@学習院」という内輪の研究会で構想を膨らませてきたのが「小規模分散型低学費大学」です。

去る6月21日に、同研究会の代表でもある諏訪が、環境自治体会議WEB講演会で約1時間、大学の地方への分散が求められていること、その場合も、定年退職者や半農半Xの移住者などの多様な人材を活用することで低学費に抑えるべきことを熱く語りました。「小規模分散型低学費大学」を八ヶ岳山麓に開設することは、NPO法人八ヶ岳SDGsスクールの将来構想の一つでもあります。さいわい、いくつかの地域でも同じように地域課題解決型の大学を作ろうという動きが生まれており、「設立後はインターネットを通して授業を共有しましょう」とか、「互いの大学を訪問して、自由に受講し、単位も取得できるようにしましょう」というような大学間のネットワーク構想も生まれています。なお、環境自治体会議は、その後他の団体と合流し、「持続可能な地域創成ネットワーク」と改称しており、10月11日、12日に開催予定の同ネットワークの設立記念大会でも、グループセッションで「小規模分散型低学費大学」のカリキュラム構想について意見を交わす予定です。同ネットワークには、地方自治体の首長も30名ほど参加しており、「小規模分散型低学費大学」が実際に誕生する可能性が広がってきました。

下の2つの図は、6月21日のWEB講演会で使用したPPTの一部です。

2020年9月6日

北杜市に大学を!

八ヶ岳山麓に移り住んで20年余り。

風光明媚で水も空気も最高。周りの山々が台風や集中豪雨の直撃を防いでくれており、満足しきった日々を過ごしている。

こんな素晴らしい地域であるにも関わらず、人口は徐々に減少している。北杜市の場合、このまま推移すると、2040年には2000年比で人口は3割減、高齢化率は倍増して50%を超えると予測されている。

「いやあ、東京一極集中で、地方はどこでもそうですよ」と諦めきった声も聴かれるが、適切な対応をしていけば、この趨勢は変えることができる(と信じている)。

過疎先進県と言われた島根県では、いち早く若者世代を呼び込む地域魅力化政策に取り組んだ。その結果、若者世代の移住と高出生率で近々人口増に転ずると見込まれる町村が相当数になっている。

地域の特性に応じた適切な対応をすれば、いつまでも活力のある魅力的な地域であり続けるようにすることは可能である。

では、北杜市の場合の適切な対応とはいったい何だろうか?

その答えが「北杜市に大学を!」である。

「北杜市に大学を!」についての私の皮算用を問答形式にすると以下のようになる。

問「これからの学齢人口が減少する時代に、地方に大学を作って学生が集まるのですか?」

答「授業料を国立大学の半分以下の低学費大学にして、魅力的なカリキュラムを準備すれば学生は集まってきます。」

問「低学費でどうやって大学を運営できるのですか?」

答「大学の運営費用の3分の2は、人件費支出です。人件費を圧縮しなければ低学費にはできません。北杜市には元気の有り余っているインテリ・リタイア層が多数います。「超低年俸、ただし新たな生きがいを見つけることができますよ」とその人たちに再登板してもらえば、人件費は大幅に圧縮できます。また、半農半Xという若年層も多数いますが、その半Xの一つとして、大学運営にも協力してもらえればと思っています。もうひとつがMOOCs、つまり大規模無償オンライン講義の利用。MOOCsはアメリカで急増していますが、日本でもコロナ禍で大学の遠隔授業が急増しつつありますが、やがて質の高いMOOCsが利用可能になるはずです。人件費に次ぐ支出で大きいのが校地校舎ですが、自前の校地校舎を持たず、公共施設を徹底的に活用するようにします。」

問「魅力的なカリキュラムとは具体的にはどんなものですか?」

答「一言でいうと、徹底的にアクティブな、つまり受け身でない能動的な学びで構成されたカリキュラムです。詳しい説明は省略しますが、下の図に示したように、PBL、フィールドワーク、簡略版ABD(注参照)、MOOCsの4つを柱とし、問題解決能力と社会人基礎力と思慮深さを育みます。いずれにおいても「対話」を徹底させることで、学生は驚くほど成長していきます。問題解決能力と社会人基礎力と思慮深さを身に着けていれば、卒業後の就職も心配いりません。」

今日の大学の大部分は古い慣習や制度をひきずっている。73年も前にできた大学設置基準という規制でがんじがらめになってしまっている。その結果、学生に持続可能な社会の構築を担うべき力をつけることなく社会に送り出している。

未来の社会を先取りした、持続可能な社会の創り手を育む高等教育システムの確立は急務で、北杜市という地域の特性は、その成功事例を作るのに最適である。

課題解決能力養成に主力を置いた大学を設けることこそ、北杜市がいつまでも活力のある魅力的な地域であり続けるためにまず着手すべきことと確信している。

(注)ABD(アクティブ・ブック・ダイアローグ)は、1冊の本を分断してグループのメンバーに割り当て、各人が自分の担当部分の要旨を発表し、その後対話を通して理解を深める短時間読書法。簡略版ABDは、さらなる時間短縮のために1冊の本そのものではなく、本の要約版を用いるもので、日本環境教育フォーラム主催の教員免許更新講習で実証実験済み。読書離れの著しい現代の学生が、先哲の様々な知恵に触れ、思慮深さや社会人基礎力を育む極めて有効な方法である。

2020年8月15日

「SDGs時代」って何?

教員免許更新講習と「SDGs時代」

『SDGs時代の教育』、『SDGs時代のパートナーシップ』『SDGs時代の平和学』などの書名にもあるように、「SDGs時代」という言い方が広がっている。と、他人ごとのように書いたが、筆者自身、今春の教員免許更新講習でも、またこの夏の免許更新講習でも、「SDGs時代の学校教育」という1時間半ほどのセッションを担当している。

「SDGs時代」を冠した 最近の出版物

内容は、新学習指導要領のキーフレーズである「持続可能な社会の創り手」を軸に、ESD(持続可能な開発のための教育)からSDGs(持続可能な開発目標)への展開や、学校でSDGsに取り組んだ先進的な実践事例について解説・紹介するとともに、アクティビティを交えて学びを深めてもらうというものである。そのセッション全体を通して受講者に伝えたい事柄を一言でいうと、「“SDGs時代の学校教育”となるのかな」と、軽い気持ちでこのセッション名を主催者に提示し、そのままプログラムに掲載されることとなった。

受講者に学習院大学のキャンパスに集まってもらって対面で実施できた春の研修では、受講者の様子を伺いながら、あるいは受講者からの質問に応じて補足的な説明が可能であった。しかし、この夏の免許更新講習はオンラインで行うことになったため、受講生が疑問に感じそうなところをあらかじめ丁寧に説明するようにしておこうと、使用するパワーポイントも充実を図ることにした。そこですぐに充実すべき対象として浮上したのが、本エッセーのタイトル“「SDGs時代」って何?”であった。

SDGsの理念が示唆する重要な分岐点となる時代

SDGs(持続可能な開発目標)は、2015国連持続可能な開発サミットで採択された 「我々の世界を変革する 持続可能な開発ための 2030アジェンダ」に盛り込まれた17の目標と169のターゲットを指す。しかし、SDGsを語ろうとした場合、「2030アジェンダ」の前文や本文に記述された理念を抜きに語ることはできない。

「2030アジェンダ」の前文の最初のパラグラフで、「貧困を撲滅することが最大の地球規模の課題であり、持続可能な開発のための不可欠な必要条件であると認識する。(外務省仮訳)」と明確に記述し、「貧困の撲滅」が「持続可能な開発の必要条件」という認識を示している。また、第2パラグラフの末尾では、「誰一人取り残さないことを誓う」と述べて、落伍者を生み出す競争社会や、自分さえよければよいという考え方との決別を表明している。そして、それを実現するには「我々の世界を変革する」必要があることをアジェンダの冒頭に掲げて訴えている。SDGsの17の目標と169のターゲットは、何を取り上げて、どのような手段で我々の世界を変革すべきかについての具体的な提案とみることができる。

この高邁とも思われがちな理念を掲げた背景には、社会的・生態的な持続可能性の危機が、もはや猶予のならない段階にまで来ているという認識に基づいている。つまり、「SDGs時代」とは、社会的・生態的な持続可能性の危機という、人類が直面する課題に対して、あらゆる国家、あらゆる組織、あらゆる人々が協力してその解決に取り組むことが求められている時代であり、実際に取り組みが進んでいる時代ということができよう。

我々の世界を変革して、持続可能な社会を構築できるのか、それとも、自己の利益を主張し続けて争いに明け暮れたり、直面する課題解決の行動に着手せずに無為な時間を過ごしたりすることで、取り返しのつかない事態になってしまうのか。その分かれ道に差し掛かっている時代と捉えることもできる。

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